2013年2月19日火曜日

【3】★ローマ人の物語8~10 ユリウス・カエサル ルビコン以前(新潮文庫)

ユリウス・カエサルは古代ローマ最大のスーパースターだ。お金も地位もないところからスタートした彼が、どのようにしてトップへの道筋を歩んでいくのかが描かれているのが、「ローマ人の物語8~10 ユリウス・カエサル ルビコン以前(塩野七生著、新潮文庫)」だ。著者が、このシリーズ中、一人の人物に最もページを割いていることからも分かるように、知れば、その人の魅力にひかれ、読むことも語ることも、時間を割くこと間違いなしだ。文章量の多さが、質の高さとイコールするものではないが、カエサルの濃密な人生は、現代の人々も魅了して止まない。


◆カエサルの人となりを表す文章の抜粋◆
一説によれば、会計検査官就任までにカエサルが積み重ねた借金の総額は、一千三百タレントにものぼったという。十一万以上の数の兵士を一年間まるまる雇える金額である。
それにしても、何に費やしたのか。政界キャリアをはじめる以前の借金なのだから、選挙運動費でもなければ、人気取りを狙った、剣闘士試合の主催費でも街道の修理費でもない。カエサル家の経済状態がつつましいものだったので他人から借りたのだが、諸々の史料からうかがえる費消先は、次の三つに大別できるようである。
第一は、自分自身のため。
カエサルの読書量は、当時の知識人ナンバー・ワンと衆目一致していたキケロでも認めるところであった。当時の書物は、高価なパピルス紙に筆写した巻物である。当然だが、高くついた。そのうえ、若きカエサルはお洒落の面でも有名だった。凝れば凝るほどお金はかかったのである。
カエサルのおおらかな借金の第二の理由は、史家たちによれば、彼の友人づきあいのおおらかさにあったとなる。
莫大な額になった借金の第三の原因は、愛人たちへのプレゼント代であった。この面でも彼のおおらかさは有名で、自ら選んだ高価な品を女たちに贈るので評判だった。
名家出身でも金持ではなく、輝かしいキャリアなど薬にしたくもなかったのが当時のカエサルだが、また、女性的と思われるほど整った顔立ちを美男とした古代では、特別な美男子でもなかったが、すらりと背は高く均整のとれた肉体と、生き生きとした黒い眼と、立居振舞いの争えない品位は、彼を、同年輩の若者たちに混じっていてもひときわ目立つ存在にしただろう。それに加えて、アイロニーとユーモアをふくんでの彼の会話も楽しかった。高価な物などを贈らなくても、女たちにモテたろう。しかし、贈物をもらえば、女は嬉しく思う。カエサルは、モテるために贈物をしたのでなく、喜んでもらいたいがために贈ったのではないか。女とは、モテたいがために贈物をする男と、喜んでもらいたい一念で贈物をする男のちがいを、敏感に察するものである。(120‐124P)